books ■ Mothering Sunday by Graham Swift

 

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今年に入って同僚と新潮クレストブックスを読む会という読書会をはじめました。これまでに読んだ本は『運命と復讐』、『ノーラ・ウェブスター』、『オープン・シティ』。

そして5月の課題はグレアム・スウィフトの『マザリング・サンデー』でした。

 

実は、去年の春ごろロンドンに行った際に原書を買っていました。ちょうどその時期にペーパーバック版が出たばかりだったようで、地下鉄の駅のあちこちでポスターを見かけたので、その見た目に惹かれて中身もよく見ずにジャケ買いしたのがこの本でした。

(だってこのモディリアーニの絵を大胆に使ったカバー、とってもステキじゃありませんか!)

原書はそのまま積読になっていたので、この度クレストブックスシリーズから刊行されてとてもうれしかった

 

前置きは長くなりましたが、この本では19243月のマザリング・サンデー(母の日)に、とあるお屋敷に仕えるメイドの女性に起こるできごとを、後年の彼女自身が思い出すように語られます。

当時イギリスではこのマザリング・サンデーのみ、使用人たちが里帰りすることが許されたそう。この本の主人公ジェーンは孤児なので帰る里もなく、別のお屋敷の跡継ぎ息子である恋人に会いに行くのですが、実はこの彼、数週間後には別の女性と結婚することになっていて

という話ですが、この本のすごいところは身分違いの恋、という話にとどまらず、後年作家となったジェーンが、いかにこのマザリング・サンデーに起こったできごとが彼女の人生を大きく変えたかを振り返りつつ、作家とは何か、人間にとって想像力とは何なのか、というところまで話を展開していくところにあります。

たった150ページ(原書)足らずの中編でここまでの話にするとは! かなり衝撃的でした。

過去と現在を話が飛ぶ構成も複雑なのに、すっきり読めて。それからジェーンと恋人が二人で過ごすシーンもリアルで、それがとっても艶めかしい(笑)

 

グレアム・スウィフトは本作で「最良の想像的文学作品」に贈られるホーソーンデン賞を受賞したそう。彼の作品を読むのは初めてだったけど、代表作ともいわれている『ウォーターランド』やブッカー賞受賞作の『最後の注文』も読んでみたい。

 

それから、日本語版の訳者あとがきがとても良かったです。訳者あとがきって淡々と解説だけで終わってしまうものもあるけれど、この訳者の方の解釈というか、この本の見方にとても感動して、思わず付箋を貼ってしまったほど。

もちろん訳もとてもすばらしく、翻訳の勉強のために原書と日本語版を読み比べしているのですが、けっこう大胆に訳しつつも原書の雰囲気がそのまま残っていて、しかも時々でてくるちょっと古めかしい言葉遣いがこの小説の舞台にとても合っていて勉強になります。

「ちょろちょろ」という表現は名訳だと思う(と、読書会のメンバーと興奮して話しました)。「ちょろちょろ」がなんのことかはここでは書けないのでぜひ本を読んでください(笑)

 

余談ですが、私は原書のカバーがやはり好きです。大胆に裸で横たわる女性が、マザリング・サンデーの日にジェーンが恋人に見せた姿に、そして大胆に未来を切り開いていくジェーンの生き様に重なるからです。

 

マザリング・サンデー (新潮クレスト・ブックス)

マザリング・サンデー (新潮クレスト・ブックス)

 
Mothering Sunday

Mothering Sunday